’01の悲劇

fuji01



フジではハーフパンツはなるべく避けた方がいい。
使用していいのは湯上り時の爽快感に浸る温泉からキャンプサイトまでの
道のりと、朝霧に濡れるのを避ける時の朝のキャンプサイトだけ。
そして、その時間違っても素肌を地べたにさらしてはいけない。
さもなくば、“野ダニ” なる魔物に足を刺され、くるぶしってどこ?
状態に陥る危険性を大いに孕んでいるからだ。
しかし、何も知らないまま運悪く “野ダニ” に刺されてしまい、
楽しい楽しいフジロックを棒に振ってしまった人もいる。
そんなわけで今日は、そのちょっとした体験記でも記しておこうかと思う。


初日の朝、Aが僕の足の傷口を発見してひと言


「何か血出てねぇ?」


足元を見ると、脹脛と足首の辺りにぽっかりと開いた直径2mmぐらいの穴から血が流れていた。
しかし不思議なことに痛みはなかった。
何だろうとは思いながらも、特にこれといった支障もなかったのでしばらく放っておくことにした。
1日目が終わったあと、テントに戻ってホッとひと息ついた時、左足に妙な違和感を覚えたので、
ふと足元を見下ろしてみると、少し見た目にもわかるぐらい足が腫れていた。
何かおかしいと感じながらも、こんな時間ではどうすることもできないので、この日はそのまま眠りについた。
次の日、起きてみると腫れは引いているどころか昨日よりも酷くなっており、しかも痛みを伴っていた。
そして時間が経つにつれますます腫れは酷くなり、痛みは更に増徴していった。
既に普通に歩くことは出来ない状態までになっていたのだが、
この日は朝一からナンバーガールスーパーカーが被るという鬼のようなタイムテーブルで、
この痛みに代えてでも見たい、見なければならない!という強い思いが
僕の足を救護テントではなくグリーンステージへと運んでいた。
ライブ中そんな強い思いが痛みを忘れさせてくれた・・・・・・
というようなことは一切なく、透明少女が始まった途端に突如沸き起こったモッシュに巻き込まれ、
四方八方からムチャクチャにパンパンに腫れあがっている足を蹴られ続けた。
泣きそうだった。
その壮絶な痛みの中でも彼らのライブを最後まで見届けたところに
当時の僕のナンバーガールへの思いが窺い知れるんではないだろうか。
この時、ナンバーガールフジロック最初で最後の出演だった*1


さて、その痛みに泣きそうになりながらも何とかナンバーガールを切り抜け、
アンコールを待っている連中を尻目に一目散にレッドマーキーへと走った。
足は死ぬほど痛い。・・・・・・・なのに、だ。
なぜならそこにスーパーカーがいるから。
彼らのライブもまた見届けなければならなかった。
この時、スーパーカーフジロック初出演だった*2
マーキーに着いた時、ライブはまだ始まったばかりの様子で*3
何しろ人が多くて前のほうへは行けなかったけど、何とか入場規制前に中に入ることができた。
そして初フジロックスーパーカーを堪能し、入り口で待っていたA*4と共にフジ初の救護テントへ。


救護テントへ向かうと、スタッフらしきおっさんが迎えてくれた。
「これいつから?」
『たぶん前夜祭の時からだと思います』
「ダメだよー、すぐ来なきゃー」
と診察用のイスと冷たい飲み物を用意してくれた。
そして、僕がそれを飲み終わった頃に彼は現れた。


うはっ! こいつ絶対クスリやってるっ!!


なスキンヘッドにバカでかいわっかのピアスをした今どきのことばを喋る異国人風などっからどうみても怪しい、
こいつホントに医者か?と疑ってしまうような風貌の見た目30過ぎの男性がその救護テントに常駐している医者だという。
ナースらしき人が助手をしていたが、彼女は薬を飲むための水を持ってきてくれたぐらいで、
白衣を着てるわけでもなく、ハリ*5を刺すそぶりもみせなかったので、
見たところ看護助手のパートのお姉さんか、夏休み中の看護学生といったところが妥当な線か。
彼(女)らが手に負える範囲には相当の制限があるだろう。この医者もまた然り*6
しかも基本的にやってくれるのは応急処置だけ。
つまり自分の身は自分で守れ。結局はそういうことだ。


さっきの続き。
そしての医者からなんたら軟膏のようなものを脱脂綿かなんかに塗って患部に貼るように、
その後の処置についての説明を受けた直後、その突飛な容姿や彼の醸し出す雰囲気のあまりのぶっ飛び具合に僕の頭もぶっ飛んでしまったのか


『これ、やっぱ医者に診てもらった方がいいですかねぇ?』


今正に医者に診てもらってる目の前で、この発言。
しかも本人は大真面目だ。完全なる天然だ。
からしてみれば「・・・・いや、お前今医者に診てもらってるから・・・・・・」
と言いたいところだったのかもしれない。
しかし、いくらぶっ飛んでいてもさすが、彼は医者だった。
こんなアホな質問をしている患者に対しても、彼は医者の対応をした。
彼はとても頭の回転が速かったらしく、一瞬躊躇したものの、
その後は冷静に状況を把握した上で、僕に適切なアドバイスをしてくれた。
「痛みが引かないようだったら、行った方がいいかもしれないね」


彼は今年も救護テントに来ているんだろうか。
ま、なるべくなら会わないことを願うんだけど・・・・・。
この事件以来、僕はフジロックではハーフパンツは絶対に履かないことにしているのは言うまでもない。

*1:と、記憶している

*2:と、記憶している

*3:実際まだ1曲か2曲ぐらいしかやってなかったと思う

*4:彼は入場規制で入れなかったらしい

*5:傷口に残ったダニの歯を取るためのもの

*6:前述のそれとはちょっと違うけど・・・・・・